
文部科学省が推進するGIGAスクール構想により、タブレット端末の利用といった新しい学習方法が定着しています。そのような新しい学習方法の一つが「自由進度学習」です。この記事では、自由進度学習を導入するメリットや現状の課題、そして導入に向けて必要なことを解説します。
自由進度学習とは、生徒自身が学習計画を立てる学習方法です。中央教育審議会による2021年1月の答申では、新しい時代に対応できる児童・生徒の育成のために「個別最適な学び」と「協働的な学び」の推進が必要とされました。自由進度学習は、その2つを実現するために適した学習方法とされています。
自由進度学習が注目されている背景には、学習指導要領に基づく教育課程のあり方が見直されたことを挙げられます。2022年4月に実施された中央教育審議会の特別部会により、個別最適な学びと協働的な学びを充実させるための方法として取り上げられたのが自由進度学習です。
従来の授業は一斉・画一的に行われてきましたが、それだけでは生徒一人一人の学びに対する興味や関心を引き出すことは困難と言わざるを得ません。GIGAスクール構想により推進されたICT教育を効率化させ、新しい時代に対応できる生徒を育成するための学習スタイルとして、自由進度学習が注目されています。
自由進度学習のメリットとして挙げられるのは、主に次の3つです。それぞれのポイントを解説します。
<自由進度学習のメリット>
・主体性や学習意欲の向上が見込める
・個別最適化された学習を実現できる
・生徒への学習サポートがしやすくなる
自由進度学習の特徴は、自分が学習する内容を自分で決断し、自分のペースで学習することです。先生から与えられた問題や課題の解決に取り組むのではなく、自分で責任を持ち取り組むべきことを決める学習法のため、生徒の主体性を向上させるきっかけになります。
また、生徒自身の裁量が増えるため、学習意欲の向上が見込めることもメリットです。苦手意識が原因で数学に意欲を持てなかった生徒が、自由進度学習により、積極的に数学に取り組むようになったとの結果も出ています。これにより成功体験を得られると、さらに主体性や学習意欲を高めるといった好循環につながるでしょう。
生徒の理解度に応じた最適な学習ができることも自由進度学習の特徴です。それぞれの生徒が得意な学習が先に進められ、苦手とする分野には時間をかけて取り組めます。教育現場におけるAIの発展も目覚ましく、生徒の学習データを記録して分析し、理解度に応じた教材を提供することも可能です。
従来の一斉指導型は、学力が異なる生徒が同じ進度で学ぶ必要があるため、学習に遅れが生じる生徒が生まれることもありました。一方で、そのような生徒に合わせた学習を行うと、学習が進んでいる生徒にとっては物足りません。そのような課題を解消できることも、自由進度学習のメリットです。
自由進度学習でメリットを得られるのは生徒だけではありません。生徒への学習サポートがしやすくなり、学習につまづいている生徒をフォローしやすくなることは、先生にとってのメリットです。
自由進度学習では、生徒が自分のペースを守って学習できるため、先生は「それぞれの生徒が何を得意としていて、何が苦手なのか」を認識しやすくなります。そのため、生徒に声がけをしやすくなり、分かるまで時間をかけて指導するという、一斉授業では困難な教え方が可能です。
自由進度学習には先述したメリットがある一方で、以下のデメリットや課題もあります。それぞれのポイントを見てみましょう。
<自由進度学習のデメリット・課題>
・指導計画や進度管理が難しい
・学習指導要領の基準に追いつけなくなるリスクがある
・先生の負担増や人手不足につながる
自由進度学習は、生徒自身が主体性を発揮することを前提とする学習スタイルです。そのため、先生がクラス全体に対して指導計画を立てることが難しいでしょう。また、生徒によって学習の内容を理解するスピードに差異が生じるため、進度管理が難しいことも課題の一つです。
学習指導要領は、授業で扱う内容の基準を示したものであり、すべての生徒に対して必ず指導する必要があります。しかし、自由進度学習は生徒自身が学習のスピードを決める方法のため、学習指導要領の基準に生徒のペースが追い付かないリスクがあることには注意しなければなりません。
また、現時点における日本の学校制度は、学年制と一斉授業を前提に設計されています。そのため、自由進度学習を導入する土壌が整っているとはいえません。
自由進度学習を導入する場合、先生が果たすべき役割は従来型の指導方法とは大きく変わります。先生が一斉指導するスタイルから、学習支援者としてサポートするスタイルに変化するため、先生の負担増や人手不足というデメリットに直面する可能性も高いです。
例えば、生徒ごとに異なる学習ペースに対応するためには、個別指導にも多くの時間を割く必要が生じるでしょう。学習支援ツールを活用するためにも新たな技術や知識の習得が必要になるため、教育現場によっては自由進度学習に対応できる先生が不足し、一部の先生に負担が偏る可能性もあります。
自由進度学習の導入にあたり必要なことは次の4つです。それぞれをわかりやすく解説します。
<自由進度学習を導入するために必要なこと>
・学習環境の整備
・教科ごとの指導案の策定
・評価方法の工夫
・教職員間での連携
自由進度学習の導入に向けては、パソコンやタブレットなどの端末や、高速かつ安定したインターネット環境、ICTツールといったソフトウェアが必要です。GIGAスクール構想により教育現場にはインフラが整いつつありますが、各家庭の経済状況によっては学習環境を整備できず、教育格差が生じる可能性があります。
国語や英語、理科、算数・数学といった教科ごとの指導案の策定が必要です。単元の目標や評価苦順、指導計画、本事案などを盛り込みながら、生徒中心の学びを重視した指導案が求められます。
従来の学習スタイルとは異なるため、評価方法の工夫が必要です。評価項目を縦に並べ、横には評価の基準を書いた計画表を用いる「ルーブリック評価」や、生徒の作品や自己評価を記録して蓄積する「ポートフォリオ評価」などが代表的な例となります。
自由進度学習を成功に導くためには、先生同士が連携を深めることも重要です。生徒に関する情報交換を活発に行うことにより、柔軟な学習環境を整備しやすくなり、個別最適化を実現できるカリキュラムに見直しやすくなるでしょう。
自由進度学習とは、生徒自身が学習の内容やペースを決める学習スタイルです。生徒の主体性や学習意欲の向上が見込めることなどがメリットですが、指導計画や進度管理が難しく、先生の負担増につながりやすいことはデメリットといえます。また、ICTツールなどの学習環境を整備する必要もあります。
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