
2020年~2022年に実施された新学習要領が導入に伴い、文部科学省は自己調整学習を重視すべきとしています。高校などの先生のなかには、自己調整学習とは具体的に何なのか疑問を抱いている方も多いでしょう。この記事では、自己調整学習が教育現場で注目されている理由や、重要な要素を解説します
自己調整学習とは、生徒が自分自身の学習活動に対して能動的に関わり、自らの学習を調整する学び方です。自己調整学習では、生徒が自ら立てた目標を達成するための意欲を向上させやすく、自分に合った学習方法に調整できるため、効率良く学習を進められます。
自己調整学習が注目される背景には、主体的な学びの実現を目指す日本の教育における課題が浮き彫りになったことを挙げられます。新型コロナウイルスによる休校期間中に「課題はいつ出るのか」「何を学習すれば良いのか」といった疑問が生徒や家庭から噴出し、子どもが自ら学ぶスキルを得ていないことがわかったのです。
さらに、2022年に実施されたOECDのPISA調査によると、自律的に学習することに対して「自信がない」と回答した生徒が多く、平均値が-0.68にとどまっていることもわかりました。OECD加盟国の平均値は0.01であり、日本の指標が参加34カ国のうち最下位です。この事実も、自己調整学習が注目される理由の一つになっています。
自己調整学習は、アメリカの教育心理学者であるジマーマンらにより研究が進められました。『自己調整学習―理論と実践の新たな展開へ―』に代表される関連書籍も多数出版されており、教育現場における参考資料として活用されています。
自己調整学習を取り入れるメリットは、生徒自身が学びに対するモチベーションを高めやすいことです。自分自身で立てた学習目標を基に勉強を進めるため、自分に合った学習方法を選択しやすく、学習の質を高められるでしょう。
自分で学ぶ力を養うことにより、かねてより目指してきた「主体性」や「自立性」を伸ばしやすいことも自己調整学習のメリットです。これにより、より深い理解や応用力、柔軟性を身につけることが期待できます。
自己調整学習を効率良く行うために必要な要素は次の3つです。
<自己調整学習を構成する3要素>
・動機づけ
・学習方略
・メタ認知
先述したジマーマンの論文によると、自ら学ぶ子どもは「学習前・中・後の3段階のサイクルをぐるぐる回せる子ども」といいます。このうち第1段階となるのが「動機づけ」や「学習方略」、第2段階が「メタ認知」です。それぞれのポイントをわかりやすく解説します。
何のために学習するのかを示し、学習に対する興味を喚起することが動機づけです。生徒が学習計画を作成したり目標設定をしたりする際に、先生が学習の動機づけを行うことにより、生徒の学習意欲を高めやすくなります。
動機づけの種類は「外発的動機づけ」と「内発的動機づけ」の2種類です。外発的動機づけは「褒める」「叱る」といった行動を回避する動機づけのため、ネガティブなイメージを持つ先生も多いでしょう。しかし、最も悪いのは「無動機づけ」とされており、主体的な学びを実現するためには、効果的な動機づけを行うことが重要となります。
学修方略とは、効果的に学習する方法や工夫のことです。例えば英語の授業で単語を覚える場合、「耳で聞く」「発生する」など互換的な方法で覚える方法が合う生徒がいれば、ドリルを使った繰り返し学習で覚える方法が合う生徒もいます。効果的な学習方法は人によって異なるため、自分の適性を見極めて選ぶことにより、自律的かつ深い学びを実現しやすくなるのです。
学習方略は、以下のように大きく2種類に分けられます。
<学習方略の種類>
・認知的な学修方略…どのように覚えるか・理解するかという認知に関わる学習方略
・情意的な学習方略…困難な課題と対峙する際にどのような気持ちを持つかに関わる学習方略
重要なのは、生徒自身が学習方略を選び、活用することです。先生から学習方略を示す必要もありますが、生徒自身が主体性を持って学ばなければなりません。
メタ認知とは、自分自身を客観視して分析することです。自分自身を俯瞰して、自分の行動を客観的に見渡すことを意味します。メタ認知には、大きく分けて2つの段階があります。
<メタ認知の段階>
・モニタリング…自分自身を客観的に俯瞰し、観察して、課題を認識する
・コントロール…課題を自覚したうえで、行動や思考を改善する
モニタリングは「暗記ができない」「ケアレスミスが多い」など、自分自身の課題を認識する段階です。コントロールでは、モニタリングにより自覚した課題を改善するために、自分自身の行動や思考を見直します。
生徒がメタ認知を身につけるために重要なのは、モニタリングできる機会を増やすことです。モニタリングが不十分であれば、そもそも生徒が課題に気付けません。学習を振り返る時間を設けたり、生徒同士で課題を共有したり、先生が生徒の課題を言語化したりといった工夫が必要です。
教育現場において子どもたちに自己調整学習する力を養ってもらうために重要なのは「指導の個別化」と「学習の個性化」です。
指導の個性化とは、一定の目標をすべての生徒が達成することを目指し、個々の生徒に応じて異なる方法で学習を進めることを指します。ICTを活用することによって得たデータを活用することで、生徒ごとの学習の状況を細かく把握・分析できるため、確実な資質や能力の育成を目指せるでしょう。
学習の個性化とは、生徒の興味や関心に応じた目標に向けて学習を深め、広げることです。また、そのなかで生徒自身が「どのような方向性で学習を進めると良いのか」を考えることも学習の個性化に含めます。先生が生徒に過去の経験を振り返らせたり、今後のキャリアを見通したりする機会を作ることにより、自ら適切な学習課題を設定しやすくなるでしょう。
学校外の日常生活で自己調整学習力を養ってもらうために重要なのは、生徒が学習した内容を日常生活の多様な場面で役立てられるかをチェックすることです。
これのより「モニタリングする力」を養うと、生徒のメタ認知を促せます。さらに獲得した知識や技能などを再構築して学習に活かせる「精緻化する力」や、自らの学習の成果や課題を認識して修正する「改善する力」を養うことにより、自己調整学習する力を養いやすくなります。
自己調整学習とは、生徒自身が学習に対して能動的に関与し、自らの学習を調整する学習方法です。自己調整学習は「動機づけ」「学習方略」「メタ認知」の3要素で構成されており、ICTを活用した指導により、自己調整学習する力を養いやすくなります。
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