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【探究・知識を深める】和食×サイエンス-「うま味」の歴史と、出し汁のとり方

  • ブリタニカ・ジャパン

 

日本の和食文化がユネスコ世界無形遺産(無形文化遺産)に登録されてから、今年でちょうど10年となります。農林水産省「食文化のポータルサイト」は、和食の特徴の一つに「健康的な食生活を支える栄養バランス」をあげており、「うま味」を上手に使うことで動物性油脂の少ない食生活を実現することができ、日本人の長寿や肥満防止に役立っていると指摘しています[1]

うま味の成分は海藻キノコなどさまざまな食材に含まれ、うま味はこれらを煮出すことで効果的につくり出せます。和食に欠かせないうま味ですが、その正体が科学的につきとめられたのは、20世紀初頭のことです。

従来、味覚の種類は、「塩味」「酸味」「甘味」「苦味」の4種、ないしはその4種に「辛味」を加えた五味とする説が主流でしたが、1908年に日本人科学者の池田菊苗が五味とはまったく異なる味「うま味」を発見しました。池田は、昆布出し汁特有の味を担う成分がグルタミン酸であることをつきとめ、この味をうま味と命名しました。その後、小玉新太郎が、かつお節の出し汁の味がイノシン酸に由来することを見出すと、1960年には国中明が、干ししいたけの出し汁の味がグアニル酸に由来することを特定しました。これらの出し汁の味も、従来の五味では説明がつかず、結果、うま味に分類されることとなりました。

多くのうま味成分が日本人によって発見されたのは、古来よりうま味が和食にとって重要な役割を果たしていたからかもしれません。

科学的根拠に基づく調理方法

近年、うま味は日本だけでなく世界で認知されるようになっています。もちろん、ブリタニカの英語百科事典にも「umami」というタイトルで、うま味に関する記事が掲載されています。

英語百科事典「Britannica School」におけるうま味に関する記事

また、うま味をいかした調理方法も数多く確立されています。ここからは、うま味の効果を引き出す方法を紹介します。

(イ)アミノ酸系うま味成分(グルタミン酸など)と核酸系うま味成分(イノシン酸など)には相乗効果があり、混ぜるとよりおいしくなる[2]

このように聞くと、グルタミン酸を含む昆布と、イノシン酸を含むかつお節を同時に煮出せば、おいしい出し汁がとれるように思えます。しかし、そう簡単にはいきません。次のような性質も明らかになっているからです。

(ロ)昆布のグルタミン酸は、60℃の水に浸したときに最も効率よく抽出される[3]
(ハ)70℃以上で昆布の出し汁をとると、ねばつきや雑味の原因となるアルギン酸のナトリウム塩が溶出される[4]
(ニ)かつお節の香り成分やイノシン酸は、70℃でバランスよく抽出される[4]

つまり、温度を考えずに食材を煮出すと、うま味成分を十分に抽出できなかったり、アルギン酸のような不要な成分を抽出してしまったりするのです。60℃付近で昆布を煮出したあと、昆布をとり出し、温度を70℃に上げてかつお節を煮出すのが、効果的な出し汁のとり方です。

世界には和食に限らず、おいしい料理がたくさんあります。レシピがわかっていれば、その料理をつくることもできるでしょう。一方で、食材や、食材に含まれている成分の性質がわかれば、レシピに頼らずとも根拠に基づいてオリジナルの料理を生み出すことができるかもしれません。科学の世界には、まだ人類が解明できていないことがたくさんあります。それと同じように、料理の世界にも試行錯誤すべき領域がまだまだ残っているように感じられます。人類がいまだかつて経験したことのない味――そんな料理を味わってみたいと思うのは私だけでしょうか。

参考文献等
[1] 農林水産省,食文化のポータルサイト,https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/ich/ (参照2023-6-5)
[2] 国中明(1960)「核酸関連化合物の呈味作用に関する研究」,日本農芸化学会誌 34巻 6号,pp.489-492
[3] 成瀬宇平・角田文・加藤真理・秋田正治・村松啓義(2003)「京料理における一番だしのグルタミン酸含有量と香気成分について」,鎌倉女子大学紀要 10,pp.141-145
[4] まいにち、おだし。,「徹底的にこだわる一番出汁の取り方!」(2021),https://odashi.co.jp/odashi-howto/ (参照2023-6-5)


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