
新しい教育方法として世界各国で導入されているのが「STEM教育」です。しかし日本国内ではまだSTEMというキーワードは浸透しておらず、STEM教育とはどのようなものかわからない方が多いかもしれません。この記事ではSTEM教育を導入するメリットや実践例、そして課題について解説します。
STEM教育のSTEMは、以下の頭文字をとって作られたアメリカ発祥の言葉です。なお、STEMの読み方は「ステム」です。
<STEM教育の意味>
・Science(科学)
・Technology(技術)
・Engineering(工学)
・Mathematics(数学)
言葉の成り立ちからもわかるように、STEMは科学技術開発に重要な分野です。ただし、理系の勉強を指すわけではありません。STEM教育の本質は、生徒が自分で考えて発見する力を育てることにあります。文系・理系を問わず、自分で考える力や問題を解決する能力を育成するために重視されているのがSTEM教育です。
STEM教育は2009年に行われたオバマ大統領(当時)の演説がきっかけで注目されました。オバマ政権では2013年に「STEM教育5カ年計画」を発表し、初等中等教育におけるSTEM分野の先生を10万人増やすことなどを発表しています。
STEM教育が求められる背景として挙げられるのは、IT人材の不足や化学・数学分野におけるリテラシーの不足です。進化するテクノロジーに対応できる人材の育成や、数学的・科学的リテラシーを高めることを目的に、STEM教育に重きが置かれるようになったのです。
STEM教育を導入するメリットとして挙げられるのは次の5つです。それぞれをわかりやすく解説します。
<STEM教育を導入するメリット>
・問題解決能力が育成される
・発想力・創造力が育成される
・ITリテラシーが向上する
・将来のキャリアの選択肢が広がる
・グローバル社会での競争力が高まる
STEM教育は生徒の問題解決能力を育成できることがメリットです。STEM教育では各分野を横断的に学習し、問題や課題を解決するための方法を柔軟に考える力を養えます。近年の社会問題は複雑化していますが、広い視野を持ち、粘り強く問題解決を目指せる人材の育成を目指せるでしょう。
発想力や想像力を養うために大切なのは、自ら熱中して取り組む経験を重ねることといわれています。STEM教育は能動的な授業展開が特徴のため、クリエイティブな能力を高めることが可能です。これにより、かつてないサービスや製品を創出するアイデアを生み出す能力を育成しやすいでしょう。
コンピュータやAIといった技術を授業に取り入れることにより、生徒のITリテラシー向上につながることもメリットです。ITは現代社会において不可欠ですが、インターネット上には不適切・不確実な情報も含まれています。ITリテラシーを向上させることにより、適切な情報を見極める力を伸ばせるでしょう。
STEM教育で高度な問題解決能力を養うと、将来のキャリアの選択肢も広げられます。米国教育省は、2010年~2020年におけるSTEM関連職の需要は約34%増加すると発表しました。科学者やプログラマー、データサイエンティストなど、専門的な職業に就く生徒も育成しやすくなるでしょう。
日本やアメリカをはじめ、多くの国がSTEM教育に力を入れているため、STEM教育を重視することによりグローバル社会での競争力が高まります。経済発展が著しい中国でもAIの人材育成に重きを置いており、グローバル社会で通用する人材を育成するうえでも、STEM教育は大いに役立つでしょう。
日本をはじめとするSTEM教育の実践例をご紹介します。
<STEM教育の実践例>
・日本での取り組み
・海外での取り組み
日本におけるSTEM教育の実践例として挙げられるのはSSH(スーパーサイエンスハイスクール)です。SSHは文部科学省の認定を受けた中高一貫校・高校で行われている取り組みで、未来を担う科学技術系人材の育成を目指し、ハイレベルな理数教育を実施しています。
海外におけるいくつかの国の取り組みをご紹介します。
・アメリカの事例
サンディエゴにある公立学校では、アクティブラーニングの一種であるPBLを実践しています。PBLとは、従来の暗記型に変わる教育法であり、生徒が学びの主体となって学習を進めます。
・シンガポールの事例
シンガポールのステムインクには、STEM関連の修士号や博士号を持つ専門家が所属し、学校と連携しながら授業を展開しています。シンガポールでは、2022年度における国家予算のうち約13%を教育費に割り当てており、STEM教育に注力する国家の一つです。
・EUの事例
EUでは、Web上で参加できる「EU科学教育コミュニティ」を解説しています。自然科学・工業分野の卒業生を増加させることや、創造性を向上させることを目的とした取り組みです。
・中国の事例
中国の北京市では、高大連携型のイノベーション人材育成策として翺翔計画を打ち出しています。参加校・育成拠点校・大学等が連携し、研究者のもとで生徒が課題に取り組む、プロセス重視型の取り組みです。
STEM教育にはいくつかの課題があります。それぞれのポイントを見てみましょう。
<STEM教育の導入にあたっての課題>
・ICT化が遅れている
・教材選びが難しい
・専門的スキルをもった人材が不足している
・学校間、地域間で学習環境の格差が生じやすい
STEM教育にはICT化が必須ですが、日本国内ではICT環境の整備が不十分な教育現場が少なくありません。文部科学省のGIGAスクール構想により、小学校や中学校への情報端末配備は進みましたが、教育現場ではハード・ソフト両面の整備不足が課題となっています。
STEM教育では、従来型の教科書とは異なる、ICT技術を活用した教材を使用します。しかし販売されている教材の種類が多いうえ、導入後に「教材が使いづらい」「わかりにくい」といったデメリットを感じるケースも珍しくありません。
STEM教育ではさまざまな分野を横断しながら生徒に指導する必要がありますが、専門的スキルを持つ先生が不足していることも課題です。高いレベルでSTEM教育を実践するためには、先生の育成や人材の確保も求められます。
学校間や地域間の格差が生じやすいこともSTEM教育の課題です。ICT化の整備には地域格差が生じており、特に地方は都市部と比較してICT化が遅れる傾向が見られます。
以下のように、STEM教育から派生した教育手法もあります。それぞれの特徴を見ていきましょう。
<STEM教育から派生した教育手法>
・STEAM(スティーム)教育
・STREAM(ストリーム)教育
・eSTEM(イーステム)教育
・GEMS(ジェムズ)教育
STEM教育に「Arts(芸術・教養)」を追加した教育手法です。STEMによる技術の習得に加えて、独創的なデザイン思考も併せて教育することを目指します。
STEM教育は「論理を用いて課題を解決する」、STEAM教育は「アートで彩りながら課題を解決する」イメージです。前者はより真面目で、後者はより表現力が高い教育手法といえます。児童・生徒の心をつかむ教育を重視する場合は、STEAM教育の導入も検討すると良いでしょう。
先述したSTEAM教育に「Robotics(ロボット工学・技術)」を追加した教育手法です。「Reading(読解力・情報リテラシー)」「Reviewing(評価)」といった意味が含まれることもあります。
STEM教育に「environment(環境)」を追加した教育手法です。環境の意味は広く、自然環境のほか産業環境、生活環境なども表します。
GEMS教育は「Girls in Engineering Mats and Science」を意味する言葉です。女性がSTEM分野に進出することにより、男女平等の実現を目指します。
STEM教育とは、科学技術開発の発展に必要な教育です。日本国内のみならず、アメリカをはじめとする世界各国でも重きを置かれています。STEM教育の実践により、問題解決能力や発想力、ITリテラシーの向上を目指せることがメリットです。
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