ピーターラビットの時代

  • ブリタニカ・ジャパン

 

3月下旬から世田谷美術館で企画展「出版120年 ピーターラビット展」が開催されています。この催しは、作家ビアトリクス・ポターによる「ピーターラビット」シリーズ第一作『ピーターラビットのおはなし』The Tale of Peter Rabbit(1902)の出版から120年を記念するものです。

ブリタニカ・ジャパンでは今から28年前の1994年4月に発行された『ブリタニカ国際年鑑1994年版』のなかで、1893年9月4日のピーターラビット誕生から100年を祝って、女優の檀ふみさんにコラム「ピーターラビットの故郷を訪ねて」を寄稿いただいております。

檀さんはコラムのなかで、取材で訪れたピーターラビットの故郷、湖水地方(レークディストリクト)の自然が織りなす美しい景観に感動するとともに、自然ならではの厳しさをあますことなく表現しようとしたポターの「描く」情熱に称賛の言葉を贈っています。

また、湖水地方の環境保護に尽力したポターやナショナル・トラストの創設者の一人ハードウィック・ローンズリー牧師にも深い敬意を表しています。

シリーズに登場する数々の動物たち――青い上着の主人公ピーター、肩掛けを羽織ったフロプシー、モプシー、カトンテールの三姉妹、ピーターのいとこのベンジャミン・バニー、青いボンネットを被ったあひるのジマイマに、柄のベストと赤いマッキントッシュ(レインコート)がなんともおしゃれなカエルのジェレミー・フィッシャーら――は、ポターの家がある湖水地方のヒルトップに暮らし、やさしいタッチの水彩で愛嬌たっぷりに描かれています。

ところが物語では、すでにピーターのお父さんは人間によってうさぎパイに変えられ、そのほかの動物たちも命の危険にさらされ続け、どきっとするほど残酷な描写だって見受けられます。

ピーターラビットをめぐる一連の物語を通じてポターが幼い読者に伝えたかったこと、それは、大人の世界に潜む現実的な危険と、行動を起こせばそれなりの責任や結果が伴うということ。

この頃のイギリスは、華々しいビクトリア朝時代が終わり、エドワード朝時代(1901~10)を迎えています。欧米列強がアフリカやアジアなどへ勢力拡大をはかり、大英帝国はドイツの拡張をくい止めるべく、フランスや帝政ロシアと軍事的・経済的に結束する道を選びます。

その後、ヨーロッパは二つの陣営に分かれ、1914年勃発の第1次世界大戦(~1918)を経験することになります。

ピーターラビットが世間に認知され始めた時代とは、まさに40年以上もヨーロッパに戦争らしい戦争のなかった長い平和の最後の10年間といえ、ひたひたと戦乱の世が迫りつつある不穏かつ不安な時代だったのかもしれません。


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