近年の教育現場において重要なキーワードとなっているのが「協働的な学び」です。同じく頻出するキーワードには「個別最適な学び」がありますが、この2つの違いについてよくわからない先生方が多いかもしれません。
そこでこの記事では、協働的な学びがなぜ必要なのか、個別最適な学びとの違いも交えながら解説するとともに、協働的な学びを深めるICT教材活用事例もご紹介します。
文部科学省が実施した中央教育審議会の公表から抜粋すると、協働的な学びとは「個別最適な学びが孤立した学びに陥らず、さまざまな社会的な変化を乗り越え、必要な資質・能力を育成するために充実することが重要なもの」です。
また、同じく文部科学省による「教育課程部会における審議のまとめ」では「探究的な学習や体験活動などを通じ、子ども同士で、あるいは地域の方々をはじめ多様な他者と協働しながら、持続可能な社会の創り手となれるよう、必要な資質・能力を育成する『協働的な学び』を充実することも重要」としています(一部抜粋)。
協働的な学びにおいて重要とされるのは、集団のなかで児童・生徒が埋没しないよう、「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善につなげ、より良い学びを生み出すことです。協働的な学びの高架を高めるためには、学級経営を充実し、子どもが違いを認めて協力し合える学級づくりが必要とされています。
協働的な学びに対する注目度が高まったきっかけは、新型コロナウイルスの流行です。
2020年3月ごろには全国の学校で臨時休校が始まり、時を同じくして1人1台端末の普及が促進されました。その結果、ICT環境を活用したオンライン授業により学びを保証できただけでなく、生徒が主体となった新しい学習方法も推進できています。
しかし、新型コロナウイルスの流行により、図らずも対面指導や児童・生徒同士の学び合い、地域活動への参加など、人と人との接触により学ぶことの重要性も再認識されました。それを実現するために重要なのが、多様な他者と協力して持続可能な社会を創る脂質・能力を育成する協働的な学びなのです。
協働的な学びと同様に、近年の教育現場において頻出するキーワードが「個別最適な学び」です。個別最適な学びは、協働的な学びとの関連が深いため、協働的な学びを深く理解するために概要や関連性を確認しておきましょう。
<個別最適な学びの概要や協働的な学びとの関連性>
・個別最適な学び一辺倒は「孤立した学び」に繋がる恐れがある
・個別最適な学びとICT教材の関係性</h3>
・協働的な学びにもICT教材は活用される
個別最適な学びとは、従来の教育現場において重視されてきた「個に応じた指導」を、児童・生徒の視点から整理した概念です。個別最適な学びは、児童・生徒の特性や進捗に合わせて学習方法や教材を柔軟に設定する教育方法ですが、個別最適な学び一辺倒では「孤立した学び」に繋がるリスクがあります。
個別最適な学びでは、個々の得意分野・苦手分野にフォーカスした指導ができる一方で、他者と関わりながら学ぶ機会を得にくいことは懸念点です。一方の協働的な学びでは、児童・生徒が他者と協力しながら課題解決に取り組みます。個別最適な学びと協働的な学びの両方を充実させることにより、個別最適な学びが孤立した学びに繋がらないように予防できるのです。
個別最適な学びにおいて、象徴的な学習方法といえるのがICT教材の活用です。文部科学省が公表した「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に向けた教科書・教材・ソフトウェアの在り方について」においても、「自由進度学習などの個別最適な学びをするときにデジタル教科書・デジタル教材は不可欠」としています。
ICT教材を授業に導入すると、従来の紙の教科書とは異なり、画像・動画・音声を組み合わせた学習が可能です。また、児童・生徒の理解状況をデータ収集できるため、個別最適な学びの機会を提供しやすくなります。さらに、文字だけでは伝えにくい情報をグラフや表でわかりやすく可視化できることもICT教材の特徴で、授業の効率化を実現しやすいこともメリットです。
個別最適な学びにおいて不可欠なICT教材は、協働的な学びにも活用されます。協働的な学びにICT教材を取り入れることにより、児童・生徒がグループワークを実施する際に、1つの資料を共有しながら編集するといった作業が可能です。
また、遠隔地にいる人々ともオンラインで交流できるため、協働的な学びを深めやすくなるでしょう。さらに、児童や生徒の学習意欲向上にもICT教材が役立ちます。「先生の話を聞く」「文字を読み続ける」といった受動的な授業との相性が悪い児童・生徒も、ICT教材を活用して協働的・主体的に学習できるため、学びに対するモチベーションを維持・向上させやすいでしょう。
先述したように、ICT教材は協働的な学びを深めるためにも役立ちます。ここでは、協働的な学びにおけるICT教材活用の具体例について、小学校と中学校の事例を3つご紹介しましょう。
<協働的な学びを深めるICT教材活用事例>
・事例①長野県松本市における小学4年・国語の活用事例
・事例②福島県いわき市における小学5年・社会の活用事例
・事例③福島県いわき市における中学3年・英語の活用事例
長野県松本市にある小学校4年生の国語の授業では、自分の考えや思いを伝え合い、他者の気持ちを理解するためにICT教材を活用しています。児童文学の「ごんぎつね」を用い、銃で撃たれた「ごん」が何を喋ったのか児童に考えさせ、個々の気持ちに違いがあることを知らせることがねらいです。
この授業では、クラウド上の発表ノートに「ごんの台詞」と「その台詞を選んだ理由は何か」を書き込み、タブレット端末を活用しながら児童がディスカッションを行いました。ディスカッションを重ねるなかで考えが変化する児童もおり、ごんの気持ちをより深く探究できるようになったといいます。
福島県いわき市にある小学校5年生の社会の授業では、グループで対話し、気づきを深めるための授業の実現に向けてICT教材を活用しています。自動車工場がロボットを使用する理由を探るうえで、ロボットがどのような形で作業に貢献しているのかという、児童の疑問を掘り下げることがねらいです。
この授業では、児童がインターネットで検索して気づいたことを記録しながら、役立ちそうな情報を同じ班のメンバーと共有し、話し合いを進めました。これにより、検索が苦手な児童への情報共有が進み、班内でフォローし合いながら意欲的な学習を進められたといいます。
福島県いわき市にある中学校3年生の英語の授業では、多様な立場の人物との対話を通じて生徒が自ら学ぶ授業を目指し、ICT教材を活用しています。この授業の内容、外国人の友人から「災害時に用意すべきものは何か」と質問された場合を想定して、10個のアイテムから1つを選び、理由を添えて伝えるというものです。
生徒はワークシートに答えを書き、ペアを組んでお互いの意見をまとめてカメラで撮影し、発表ノートに添付して提出します。さらに大規模地震の発生後にインフラが復旧する日数や、物流が再開する期間の情報も踏まえながらワークシートを更新しました。スライドショー機能の活用により、他のペアが記述した内容も閲覧できるため、効率的に協働的な学びを実現できたといいます。
協働的な学びとは、多様な他者と協働しながら、持続可能な社会の創り手となれるよう、必要な資質・能力を育成することです。ICT活用の実践例は、協働的な学びを目指すケースにおいても多く、さまざまな小学校や中学校でICT教材が有効活用しています。
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