小学校・中学校・高校の児童・生徒を対象に、情報に関する理解を深めるために行う情報モラル教育が話題です。しかし、導入から間もないこともあり、指導内容がよく分からない先生も多いでしょう。この記事では、情報モラル教育の概要や5つの柱、そして年代別の指導内容などを解説します。
情報モラル教育における情報モラルについて、文部科学省の情報モラル教育実践ガイダンスでは「情報社会で適正な活動を行うための基になる考え方と態度」と定義しています。
小学校・中学校・高校の児童・生徒が、適正な情報モラルを身につけるために行うのが情報モラル教育です。学習指導要領の改正により、総則において情報モラルを身につけるよう指導することが明示されており、すべての児童・生徒に対して、すべての先生が指導を行うよう求められています。
情報モラル教育の目的は、児童・生徒が情報手段を上手に賢く利用するための判断力や心構えを身につけることです。情報社会の特性の一つである「影の部分」を理解することも目標とされています。
情報モラル教育は、以下にリストアップする5つの柱で成り立っています。それぞれのポイントを解説しましょう。
<情報モラル教育の5つの柱>
・情報社会の倫理
・法の理解と遵守
・安全への知恵
・情報セキュリティ
・公共的なネットワーク社会の構築
情報社会の倫理とは、情報に関する自他の権利を尊重して責任ある行動を取る態度のことです。年代ごとに、以下のテーマで情報モラル教育を行います。
<情報社会の倫理における年代ごとの指導テーマ>
・小学校…人の作ったものを大切にし、他人や社会への影響を考えて行動することの大切さを学ぶ。
・中学・高等学校…他者の権利や知的財産権を尊重し、情報社会への参画において責任ある態度で臨み義務を果たさなければならないことを学ぶ。
法の理解と遵守とは、情報社会におけるルールやマナー、法律があることを理解し、それらを守ろうとする態度のことです。年代ごとに、以下のテーマで情報モラル教育を行います。
<法の理解と遵守における年代ごとの指導テーマ>
・小学校…情報をやりとりする際のルールやマナーを理解し、それらを守る態度を学ぶ。
・中学・高等学校…情報に関する法律や契約について理解し適切に行動する態度を学ぶ。
安全への知恵とは、情報社会の危険から身を守り、危険を予測し、被害を予防する知識や態度のことです。年代ごとに、以下のテーマで情報モラル教育を行います。
<安全への知恵における年代ごとの指導テーマ>
・小学校…危険なものには近づかない、もし不適切な情報に出会ったら大人に相談するなど適切に対応できる態度を学ぶ。
・中学・高等学校…情報社会の特質を意識しながら安全に行動する態度や、自他の安全や健康に配慮した情報メディアとのかかわり方を学ぶ。
情報セキュリティとは、生活の中で必要となる情報セキュリティの基本的な考え方、情報セキュリティを確保するための対策・対応についての知識のことです。年代ごとに、以下のテーマで情報モラル教育を行います。
<情報セキュリティにおける年代ごとの指導テーマ>
・小学校…IDやパスワードの保護や不正使用・不正アクセスの防止などを学ぶ。
・中学・高等学校…情報セキュリティの基本的な知識を身につけ、セキュリティ対策の立て方を学ぶ。
公共的なネットワーク社会の構築とは、情報社会の一員として公共的な意識をもち、適切な判断や行動を取る態度のことです。年代ごとに、以下のテーマで情報モラル教育を行います。
<公共的なネットワーク社会の構築における年代ごとの指導テーマ>
・小学校…協力してネットワークを使い、データやリソースを共有することの大切さを学ぶ。
・中学・高等学校…ネットワークの公共性を意識し、ネットワークをよりよいものにするために主体的に行動する態度を学ぶ。
情報モラル教育の5つの柱は先ほどご紹介したとおりです。この項目では、小学生・中学生・高校生と年代別のモデルカリキュラムや指導内容について、さらに深く解説します。
<情報モラル教育のモデルカリキュラムと年代別の指導内容>
・小学校1~2年生
・小学校3~4年生
・小学校5~6年生
・中学生
・高校生
小学校低学年では、分野ごとに以下の指導事項で情報モラル教育を行います。
【小学校低学年の指導事項】
領域 |
分野 |
指導事項 |
心を磨く領域 |
情報社会の倫理 |
・約束や決まりを守る ・人の作ったものを大切にする心をもつ |
法の理解と遵守 |
・生活の中でのルールやマナーを知る |
|
知恵を磨く領域 |
安全への配慮 |
・大人と一緒に使い、危険に近づかない ・知らない人に連絡先を教えない ・決められた利用の時間や約束を守る |
小学校中学年では、分野ごとに以下の指導事項で情報モラル教育を行います。
【小学校中学年の指導事項】
領域 |
分野 |
指導事項 |
心を磨く領域 |
情報社会の倫理 |
・相手への影響を考えて行動する ・自分の情報や他人の情報を大切にする |
法の理解と遵守 |
・情報の発信や情報をやりとりする場合のルールやマナーを知り、守る |
|
- |
公共的なネットワーク社会の構築 |
・協力し合ってネットワークを使う |
知恵を磨く領域 |
安全への配慮 |
・危険に出会ったときは、大人に意見を求め、適切に対応する ・不適切な情報に出会ったときは、大人に意見を求め、適切に対応する ・情報には誤ったものもあることに気付く ・個人の情報は、他人にもらさない ・健康のために利用時間を決め守る |
情報セキュリティ |
・認証の重要性を理解し、正しく利用できる |
小学校高学年では、分野ごとに以下の指導事項で情報モラル教育を行います。
【小学校高学年の指導事項】
領域 |
分野 |
指導事項 |
心を磨く領域 |
情報社会の倫理 |
・他人や社会への影響を考えて行動する ・情報にも、自他の権利があることを知り、尊重する |
法の理解と遵守 |
・何がルール・マナーに反する行為かを知り、絶対に行わない ・「ルールや決まりを守る」ということの社会的意味を知り、尊重する ・契約行為の意味を知り、勝手な判断で行わない |
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- |
公共的なネットワーク社会の構築 |
・ネットワークは共用のものであるという意識を持って使う |
知恵を磨く領域 |
安全への配慮 |
・予測される危険の内容がわかり、避ける ・不適切な情報であるものを認識し、対応できる ・情報の正確さを判断する方法を知る ・自他の個人情報を、第三者にもらさない ・健康を害するような行動を自制する ・人の安全を脅かす行為を行わない |
情報セキュリティ |
・不正使用や不正アクセスされないように利用できる ・情報の破壊や流出を守る方法を知る |
中学生は、分野ごとに以下の指導事項で情報モラル教育を行います。
【中学生の指導事項】
領域 |
分野 |
指導事項 |
心を磨く領域 |
情報社会の倫理 |
・情報社会における自分の責任や義務について考え、行動する ・個人の権利(人格権、肖像権など)を尊重する ・著作権などの知的財産権を尊重する |
法の理解と遵守 |
・違法な行為とは何かを知り、違法だとわかった行動は絶対に行わない ・情報の保護や取り扱いに関する基本的なルールや法律の内容を知る ・契約の基本的な考え方を知り、それに伴う責任を理解する |
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- |
公共的なネットワーク社会の構築 |
・ネットワークの公共性を意識して行動する |
知恵を磨く領域 |
安全への配慮 |
・安全性の面から、情報社会の特性を理解する ・トラブルに遭遇したとき、主体的に解決を図る方法を知る ・情報の信頼性を吟味できる ・自他の情報の安全な取扱いに関して、正しい知識を持って行動できる ・健康の面に配慮した、情報メディアとのかかわり方を意識し、行動できる ・自他の安全面に配慮した、情報メディアとのかかわり方を意識し、行動できる |
情報セキュリティ |
・情報セキュリティの基礎的な知識を身に付ける ・基礎的な情報セキュリティ対策が立てられる |
高校生は、分野ごとに以下の指導事項で情報モラル教育を行います。
【高校生の指導事項】
領域 |
分野 |
指導事項 |
心を磨く領域 |
情報社会の倫理 |
・情報社会において、責任ある態度をとり、義務を果たす ・個人の権利(人格権、肖像権など)を近いし、尊重する ・著作権などの知的財産権を理解し、尊重する |
法の理解と遵守 |
・情報に関する法律の内容を積極的に理解し、適切に行動する ・情報社会の活動に関するルールや法律を理解し、適切に行動する ・契約の内容を正確に把握し、適切に行動する |
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- |
公共的なネットワーク社会の構築 |
・ネットワークの公共性を維持するために、主体的に行動する |
知恵を磨く領域 |
安全への配慮 |
・情報社会の特性を意識しながら行動する ・トラブルに遭遇したとき、さまざまな方法で解決する知識と技術を持つ ・情報の信頼性を吟味し、適切に対応できる ・自他の情報の安全な取り扱いに関して、正しい知識を持って行動できる ・健康の面に配慮した、情報メディアとのかかわり方を意識し、行動できる ・自他の安全面に配慮した、情報メディアとのかかわり方を意識し、行動できる |
情報セキュリティ |
・情報セキュリティに関する基本的な知識を身につけ、適切な行動ができる ・情報セキュリティに関し、事前対策・緊急対応・事後対策ができる |
高校生の指導事項は、小学校~中学校までに学んだ基礎をより深く意識・理解するための内容です。成年や社会人になる1歩手前の年代であることから、より具体的かつ主体的に情報モラルを学ぶための指導案が求められます。
動画や音声などを用いて学習できるICT教材は、ネットワークを活用する教材です。児童・生徒がより多くの情報に素早くアクセスできることは魅力ですが、一方で情報の信頼性を見極める能力を育むことや、インターネットを利用した誹謗・中傷などのいじめを防ぐ対策が求められます。
ICT教材をトラブルなく活用するためには、情報モラル教育に力を入れることが大切です。また、情報モラル教育を踏まえるとICT教材の充実性が向上し、学習による成果を得やすくなるでしょう。
情報モラル教育とは、小学生・中学生・高校生が適正な情報モラルを身につけるための教育です。情報社会の倫理や安全への知恵など、年代ごとに5つの柱を学びます。情報モラル教育を充実させると、ICT教材の充実性を向上させられることがメリットです。
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