近年、非認知能力は教育関係者の中でも注目を集めていますが、実際に非認知能力がどのような力なのか、なぜ注目されているのかわからない方も多いのではないでしょうか?
非認知能力とは、社会の中で生きていくための重要な力です。非認知能力の高さは年収や学歴などにも影響するといわれているため、今の教育現場では子どもの非認知能力を育てる活動にも力を入れています。
今回は、非認知能力とは何かを、非認知能力を構成する具体的な力や、非認知能力の育て方などと共に解説します。この記事を通じて、非認知能力の理解と育て方のヒントが得られるでしょう。
非認知能力とは、問題解決力やコミュニケーション力など、社会の中で生きていくために重要な力です。
「非認知能力の高さと年収や学歴の高さには相関関係がある」とする研究もあり、教育現場では子どもの非認知能力を育むことが、将来の社会的成功にもつながると期待されています。(参考:人生100年時代構想会議 中間報告)
認知能力と非認知能力の大きな違いは、力を数字で可視化できるかどうかです。
認知能力とはテストやIQで評価できる力のことで、「基礎学力」や「基礎的な知識・技能」「専門性・専門知識」を表わします。
一方、非認知能力とは数字で表せない社会を生き抜くために必要な力のことで、「問題解決力」や「批判的思考」「協働力」「コミュニケーション力」などを表わします。
認知能力と非認知能力は、どちらも子どもを育てていく上で重要な力です。その証拠に、学習指導要領の「育成すべき資質・能力の三つの柱」には、認知能力として「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」、非認知能力として「学びに向かう人間性等」が掲げられています。
非認知能力が高い人と低い人には、それぞれ以下のような特徴があります。
・自己肯定感が高い
・失敗したり困難な状況におちいったりしても、前向きに取り組める
・イレギュラーな場面に出くわしても落ち着いて対処できる
・チャレンジ精神旺盛
・協調性や共感力が高い
・人と円滑にコミュニケーションを取れる
・自己肯定感が低く、他人と比べて落ち込みやすい
・自制心が低く人と円滑なコミュニケーションを取りにくい
・失敗を恐れて積極的に行動できない
・喜怒哀楽に影響されやすい
・自分の能力や行動をポジティブに捉えられない
・目標に向かって長期的に取り組むことが苦手
非認知能力が高い人は社会で生き抜く力が付いているので、生きにくさを感じたり、物事に消極的になったりしにくい傾向にあります。
一方、非認知能力が低い人は自己肯定感が低く、積極的な発言や行動に難しさを感じる人が多いため、良好な人間関係が築けず、生きにくさを感じてしまう場面が多い傾向にあります。
非認知能力が注目されている理由は、2000年にノーベル経済学賞を受賞したジェームズ・ヘックマン教授の「ペリー就学前計画」の研究結果です。
ジェームズ・ヘックマン教授は、1962年~1967年に低所得者層のアフリカ系アメリカ人の3~4歳の子どもとその親に教育プログラムを受けさせた結果、教育プログラムを受けていない子どもとの間に、学歴や年収などで大きな差が出たと発表しました。
|
教育を受けた子ども |
教育を受けていない子ども |
高校卒業率 |
65% |
45% |
年収2万ドル以上 |
60% |
40% |
23~27歳の間で生活保護を受給した経験がある |
10% |
23% |
子どもがいる(男性) |
57% |
30% |
実施した教育プログラムは、以下のとおりです。
・平日2時間半、教師1人に対して幼児5.7人の学校教育を行なう
・週1回、教師による家庭訪問(1時間半)を実施する
・毎月、親を対象にした小グループのミーティングを実施する
この結果から、学歴や生活力などを決める力は認知能力だけではなく、非認知能力も大きく影響しているのではと考えられるようになりました。
非認知能力にはさまざまな問題を解決し、積極的に取り組む力があるとされています。そのため、戦争や貧困、差別など、混沌とした世界を生き抜くためには、認知能力だけでなく、非認知能力の育成も重要なのです。
非認知能力は、具体的に以下17の能力で構成されています。
能力 |
概要 |
問題解決力 |
・自分で考えて問題を解決できる ・臨機応変に対応できる |
批判的思考力 |
・先入観にとらわれず考えられる ・物事を俯瞰的な視点から考えられる |
協働力 |
・立場の違う者同士でも協力できる ・お互いを尊重して目的達成に向けて行動できる |
コミュニケーション力 |
・お互いの気持ちを理解・尊重できる ・他者と信頼関係を築くことができる |
主体性 |
・自分の意思や判断で行動できる ・自分の意思や判断に責任を持てる |
自己管理能力 |
・目標達成に向けて自己管理・自己分析できる |
自己肯定感 |
・自分のあり方を積極的に評価できる ・自分の価値や存在意義を肯定できる |
実行力 |
・目標達成に向けて計画を立案・遂行できる |
統率力 |
・集団をひとつにまとめられる ・集団を率いて目標達成に向けて行動できる |
創造性 |
・独創的で生産的な発想ができる |
探究心 |
・物事の本質を捉えられる ・物事をより深く掘り下げて見極めようとする好奇心がある |
共感性 |
・他者と喜怒哀楽を共有できる ・自然や生き物に愛情や畏敬の念を持てる |
道徳心 |
・善悪を判断し、善い行いをしようとする |
倫理観 |
・人として守るべき物事は何か考えられる |
規範意識 |
・道徳・倫理・法律などの社会ルールを守る |
公共性 |
・価値観が違う集団の中でも自分の役割を理解して行動する |
独自性 |
・独自の観念で行動する ・オリジナリティを大切にできる |
非認知能力を伸ばしていくと、これらの力が備わっていくため、社会にうまく溶け込めるようになります。
非認知能力は大人になってからも育めますが、認知能力と同様、幼児期~学童期のほうが育みやすい傾向にあります。
一部の研究では、非認知能力と性格特性(ビッグファイブなど)との関連性が指摘されています。性格は幼児期にある程度形成され、その後は変化しないといわれているので、その点からも非認知能力は幼児期、遅くとも学童期までの育成がおすすめです。(参考:国立教育政策研究所(2017年)「非認知能力」の諸問題)
ただし、ペンシルバニア大学のアンジェラ・リー・ダックワース教授は、「非認知能力は大人になってからも育むことができる」と提唱しています。自分の欠点を素直に認めたり、他者の良い点を積極的に取り入れたりして自分を変えていけば、いくつになっても非認知能力を伸ばしていけるでしょう。
子どもの非認知能力は、以下4つの方法で育てられます。
・肯定的に受け止める
・好きなことをさせてあげる
・遊びを取り入れる
・まわりの人と触れ合う機会をつくる
それぞれ解説していきましょう。
子どもの行動や話を肯定的に受け止めてあげると、子どもはありのままの自分を受け入れられるようになるため、自己肯定感が上がります。
自己肯定感が上がれば自主的にさまざまな問題へ取り組めるようになるので、問題解決力や主体性なども連動して育むことが可能です。
子どもが「やりたい!」と思ったことをやらせてあげると、知的好奇心がどんどん刺激され、自分で物事に対して知識を深めようとします。
また、好きなことをさせてあげると、子どもは「自分のことを応援してくれている」「自分の思いを認めてもらえている」と感じるため、自己肯定感も上がりやすいです。
子どもは遊びから創造性や問題解決力、自己管理能力など、多くの非認知能力を獲得します。
単純なごっこ遊びでも、役になりきる創造性や独自性、友達と役割を調整するためのコミュニケーション力や公共性など、複数の非認知能力を育てることが可能です。
非認知能力は認知能力のように勉強から得られるものではないので、子どもの主体的活動である遊びから多くの能力を育んでいきましょう。
友達や兄弟など、まわりの人と触れ合っていくと、協働性や主体性、コミュニケーション力などが育まれます。
また、思い通りにいかない場面では、自分で問題を解決したり気分を切り替えたりする力も養えるため、非認知能力を育てるためには他者との関わりも大切です。
非認知能力を育てるためにも、以下3つの行動は避けましょう。
・比較・否定的な言葉かけをする
・過保護・過干渉になりすぎる
・失敗のチャンスを奪う
1つずつ解説します。
兄弟や友達と比較したり、失敗を責めたりするような言葉かけをすると、子どもの自己肯定感が下がってしまったり、常に他人軸で自分を評価するようになってしまいます。
非認知能力は自己肯定感が高く、自分軸で物事を考えられる子どものほうが育ちやすいので、周囲の大人は声のかけ方に注意が必要です。
周囲の大人が過保護・過干渉になりすぎると、子どもは自立心や自ら挑戦する力を持たなくなります。
そうなると子どもは次第に周囲の顔色をうかがって行動したり、指示がないと動けない人間になってしまったりするので、非認知能力を育てるためには子どもと適度な距離感を持って接するのが大切です。
子どもに悲しい思いや失敗をさせたくないと思うばかりに、周囲の大人が過剰なサポートをしてしまうと、子どもは失敗から学ぶチャンスを逃してしまいます。
子どもは失敗を通して問題解決力や立ち直る力を学んでいくので、子どもが何かに挑戦し始めたときは、そっと見守る姿勢を大切にしましょう。
非認知能力とは、「問題解決力」や「批判的思考」「協働力」「コミュニケーション力」など、社会を生き抜くために必要な人間力です。
非認知能力は大人になってからも育てることは可能ですが、幼児期~学童期のほうが育みやすいとされています。
非認知能力を育むためには、子どもの意見を肯定的に受け止めたり、まわりの人と触れあいながら好きなことをさせてあげたり、遊びの機会を多く設けてあげることが大切です。逆に、人と比べる言葉や否定的な言葉を投げかけたり、過保護・過干渉になって失敗の機会を奪ったりすると、子どもの非認知能力は育たないので、注意しましょう。
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