
アクティブラーニングは、文部科学省の主導により、小学校から大学まであらゆる教育現場で導入が進められている教育法です。しかし、高校の教壇に立つ先生のなかには、どのような形で授業に取り入れると良いのか分からない方が多いかもしれません。そこでこの記事では、アクティブラーニングの特徴や5つの手法、実践事例、成功させるポイントなどを解説します。
アクティブラーニングとは「能動的学修」のことです。文部科学省はアクティブラーニングの定義について「アクティブ・ラーニングとは、学生にある物事を行わせ、行っている物事について考えさせること」としています。まずはアクティブラーニングの概要をおさらいしましょう。
<アクティブラーニングの概要>
・アクティブラーニングの特徴
・探究学習との共通点・違い
・日本でアクティブラーニングの導入が進んでいる背景
アクティブラーニングの一般的特徴として、文部科学省は主に以下の点を挙げています。
<アクティブラーニングの特徴>
・学生は、授業を聴く以上の関わりをしていること
・情報の伝達より学生のスキルの育成に重きが置かれていること
・学生が自分自身の態度や価値観を探究することに重きが置かれていること
先生は生徒に正解を教えるのではなく、中立的な立場を意識して、議論の進行をサポートする役割を担います。
アクティブラーニングと探究学習の共通点は「主体的・対話的・深い学び」であることです。そのため、いずれもグループワークやグループディスカッションを通じて学びを得ます。
一方で、探究学習は解決する資質・能力の育成までを目指すことがアクティブラーニングとの違いです。探究学習はアクティブラーニングから一歩進み、意味のある課題を見つけて解決する能力を育成することを目指します。
日本国内でアクティブラーニングが重視されることになった背景には、少子高齢化やグローバル化があります。かつての日本はモノづくりや大量生産といった分野に強く、与えられた条件のもと、指示に沿って正確な作業ができる人材が求められていました。
しかし、マンパワーによる製造業を中心として国を発展させていた時代は過ぎ去り、現在はITやAIといったテクノロジーに重きが置かれる時代が到来しています。革新的な発想や発明を生み出せる人材を育成することを目的の一つとして、アクティブラーニングの導入が進んでいるのです。
高校で実際に行われたアクティブラーニングの実践事例を3つご紹介します。
<高校におけるアクティブラーニングの実践事例>
・自ら課題発見できる生徒の育成を目指した実践事例
・主体的な学びの土台を作るための実践事例
・読解力の深化を図るための実践事例
・海外の実践事例
福岡県内にある高校の生物における授業では、自ら課題発見できる生徒の育成を目指し、アクティブラーニングを実践しています。授業の工夫と効果は次のとおりです。
<授業の工夫と結果>
・先生が発問や課題の提示を行わない
→生徒自らが課題を発見する機会となった
・提示された質問を「教科書で解決できるもの」と「図書館等で解決できるもの」に分類する
→プロセスを通して自分事の課題となり、自分の考えを妥当なものにする機会となった
・グループの発表を先生が比較・整理してまとめる
→解決・未解決の事項を文章化でき、次の疑問や課題を見つける機会となった
某都道府県内にある高校の数学における授業では、主体的な学びの土台を作ることを目指し、アクティブラーニングを実践しています。授業の工夫と効果は次のとおりです。
<授業の工夫と結果>
・全員が解けない問題を特定して本時の課題に設定する
→生徒が主体的に本時の課題に取り組める雰囲気づくりができた
・先生が状況に応じてペアや4人グループなど活動するサイズを使い分ける
→議論が円滑に進み、生徒が表現する機会を確保できた
・個で考える時間を設け、いきなりグループ活動にすることを避けた
→各生徒が頭のなかをアクティブにして推論で来た
・グループでホワイトボードを使い解法を検討した
→当初は手も足も出なかった問題を解決できるようになった
徳島県にある高校の国語における授業では、読解力の深化を図ることを目的にアクティブラーニングを実践しています。授業の工夫と効果は次のとおりです。
<授業の工夫と結果>
・文章を読み比べ、自分にとって「届く言葉」がどちらか理由を併せて述べる
→文章の多様な捉え方に気付く機会を得られた
・文章を「支持する」「支持しない」に分類し、付箋を付けて理由を書き込む
→他者がどのような視点で比較や評価をしているか関心を持つ機会を得られた
・文章に対する肯定と否定どちらの意見も発表し、意見交換を行う
→文章の構成や展開も考慮して書き手の意図を捉える機会を得られた
海外におけるアクティブラーニングの事例として、アメリカの小中学校を例にご紹介します。アメリカでは各州の州憲法と教育法をもとに教育方針を定めていますが、ボストン市の小中学校では低学年からアクティブラーニングを意識した授業を展開しており、普通教室にも個人用の机を設置していません。
常に2人~5人用の机を利用しながら、チームワークスキルの向上を意識した授業を実施することがボストン州における小中学校の特徴です。タブレットを使用した「ロゴ制作」の授業では、児童が活発に意見交換しながら試作と壊しを繰り返しています。
アクティブラーニングを成功させるポイントは次の3つです。それぞれを解説します。
<アクティブラーニングを成功させるポイント>
・先生自身が授業の理想像を描いておく
・生徒の力を信じ、ゆだねる
・授業中は常に生徒への声掛けを心がける
先生が授業をイメージすることにより、アクティブラーニングが成功しやすくなります。授業の目的やゴールを明確にし、状況に応じた内容の声掛けを想定しておくと、授業を円滑に進行させやすいでしょう。
アクティブラーニングは生徒が主体となる学習法のため、先生は生徒の力を信じてゆだねることが重要です。先生の思い込みで生徒の限界を設けず、見守って支えることに集中する必要があります。
生徒のやる気や交流を引き出すために重要なのが生徒への声掛けです。思考や判断を促す声掛けや、対話を促す声かけをすることにより、アクティブラーニングを活性化させやすくなります。
アクティブラーニングにおける課題と対策は次の3つです。それぞれを解説します。
<アクティブラーニングでよくある課題と対策>
・学習方法やテーマの選定が難しい
・どのような声掛けやフォローをすればいいのか分からない
・授業時間内で完結させることが難しい
アクティブラーニングは総称であり、先述したとおり主だったものだけでも5つの手法があります。そのため、授業の内容に合った学習方法やテーマの選定で悩むケースは多いです。他校による事例を確認しながら、授業のヒントとして活かすと良いでしょう。
アクティブラーニングは先生に求められるのは、生徒への声掛けやフォローです。どのように振る舞うべきか分からないのではないかと不安な場合は、事前に授業の内容をイメージして、想定される状況に応じた声掛けを用意しておくと良いでしょう。
アクティブラーニングではグループ作りや解散といった作業を繰り返すため、授業時間が足りなくなる可能性があります。あらかじめ余剰分の時間を見積もって授業を組み立てたり、ICTの活用で効率化したりといった対策が有効です。
アクティブラーニングとICT教育を組み合わせると相乗効果が生まれやすくなります。その理由について、3つのポイントから見てみましょう。
<アクティブラーニングとICT教育の相乗効果>
・議論の停滞を防ぎやすい
・個々の発言力とは無関係に授業を進められる
・クリエイティビティを養える
児童や生徒にボールを預けたアクティブラーニングは情報不足に陥りやすく、議論が停滞しがちです。そこでタブレットを活用したICT教育を取り入れることにより、アクティブラーニングが活性化します。
例えば環境問題をテーマにする場合、気候学者など専門家の意見に触れられます。画像や動画を活用した分かりやすい授業も展開できるため、児童・生徒自身が気候変動から地球を救う主人公になったような気分で、学習に没頭しやすくなるでしょう。
アクティブラーニングにおける問題点として指摘されがちなのが、発言力の差によって学習機会が増減することです。積極的な児童・生徒ほど欲しい情報を取得しやすく、内気な児童・生徒が置いてきぼりになるといった悩みを抱えている先生もいるのではないでしょうか。
ICT教材の活用により、そのような課題を克服できる確率も高まります。チャットやコメント機能の活用を推奨すれば、主張が苦手な児童・生徒も意見を発信しやすくなり、アクティブラーニングの「全員で創る」精神を育みやすいでしょう。また、すべての児童・生徒にとって分かりやすく、使いやすいICT教材を導入することにより、欲しい情報に対して全員がスムーズにアクセスできます。
授業内でプレゼンを実施する場合は、スライドで作った動画を活用することによって、クリエイティビティを養えることもメリットです。児童・生徒がクリエイターになったような感覚で授業に臨む機会を与えると、海外のアクティブラーニングにも引けを取らない教育ができ、国際社会で活躍する人材を育成しやすくなるでしょう。
アクティブラーニングとは、生徒にある物事を行わせ、行っている物事について考えさせることを重視した学習法です。先生自身が授業の理想像を描いておいたり、生徒への声掛けを心がけたりすることにより、アクティブラーニングを成功させやすくなります。
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