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Britannica face to face Vol.1

憲法学の専門家として、また、ニュース番組のコメンテーターなどとしても活躍し、いま若手の法学者として最も注目を集めている首都大学東京の木村草太教授。インタビューの後編では、情報の正確さの評価、「教養」の原点、そして百科事典の価値について語っていただきました。         (聞き手:編集部)


── 情報も量的な点以上に、その質を見きわめることが大切ですね。


最近の学生の傾向として、価値のない自己啓発本のようなものを読む人が増えていると感じています。最近なにを読んだかを学生に尋ねてみると、その手の本がよくあげられて、大丈夫だろうかと少し心配になることがあります。最近よく聞く人文系機関への批判や存在意義の問い直しも、人文教養の体系性のなさが、この時代に弱点となって表れてきたのでしょう。


ある状況を理解するのは、表層的で簡単な側面とは別に、高度に専門的な知識を持っていないと理解できない側面があり、専門技術的なものの価値はむしろ上がっている気がします。インターネット上で無料の検索サイトを使って調べるのは簡単ですが、検索エンジンでアクセスしにくい情報というのは、体系的な知識に裏づけられた技術と呼ばれる分野のものになってくるのです。いわゆる理系の知識というものはそういうものですし、経済学とか法学もかなり体系だった学問です。そういった経済学や法学的視点に基づく知見というのは、ちょっと調べただけで理解できるものではないんです。


ただ、人文学は学問としての体系化が十分にできていないので、専門家の中にも、個々の情報の羅列に終わってしまうケースが少なくない。もちろん、優れた研究者はたくさんいるし、学問としての価値は高いはずなのですが、そこまでたどり着けないままに、はたして「学問」としての価値がほんとうにあるのかという視線にさらされている、という感じがしています。


── いま生起している事象を表面的に解説しているのだけれど、単発的なアイデアを出しているにすぎず、「○○学」という体系になっていないということでしょうか。


普通の評論家と専門家はなにが違うかというと、たとえば医師なら医師、法律家は法律家、こういう背景があって私は語っていますと言えますよね。でもたとえば、哲学者が集団的自衛権*1について語ろうとしたときに、どういうバックグラウンドで、どのような専門的な知見のもとで語るのか説明しにくい気がします。


法律の議論は、条文の文言をどう定義するかで8割方決まってしまうものなのです。それを、日常用語の感覚で語られても、議論が混乱するだけです。もちろん、法律用語が日常用語とかけ離れてしまうのは問題ですが、明確で公平な法適用のためには、ある程度、専門的で特殊な用語体系にすることが不可欠です。


本来は、教養や人文教養と呼ばれるものに求められているのは、時世の問題に答えを出すことではなく、より普遍的であったり、多角的であったりするようなものの見方を与えることではないでしょうか。専門知が必要なテーマについて他分野の専門家が安易に語ると、本来の専門性が失われ、床屋談議になってしまいます。


たとえばオンラインの無料情報サイトなども使い方によっては便利ですが、一次情報源としては危険な場合があります。自分がほんとうに詳しく知っている項目を読んでみてください。すると書き手がどこまで理解していて、どこから理解できていないかわかるでしょう。私もそういったサイトに記載されている「憲法9条」の項目を読むと、この程度の理解度で書いているのだということがわかるわけです。もちろん人物の生年月日などのファクト、つまり事実確認には役立つと思います。でもある事象について評価したり、体系的な専門家の知見が必要なものごとを調べたりするために使うのは危険な気がします。

*1集団的自衛権

しゅうだんてきじえいけん
right of collective self-defense

国際関係において武力攻撃が発生した場合,被攻撃国と密接な関係にある他国がその攻撃を自国の安全を危うくするものと認め,必要かつ相当の限度で反撃する権利。自衛権の一つで,個別的自衛権に対していう。国連憲章51条において,安全保障理事会が有効な措置をとるまでの間,各国に個別的自衛権と集団的自衛権の行使が認められている。本来国連憲章は,国際的安全保障の方式として集団安全保障を目指した。すなわち軍備拡張や同盟の構築によって各国が個別に安全を保障しようとするのではなく,戦争その他の武力の行使を禁止する一方,これに違反して侵略を開始する国に対しては国際連合加盟国が一致協力して集団的に強制措置をとるというものであった。しかし,アメリカ合衆国とソビエト連邦の対立下で国連憲章の予定した集団安全保障が機能しなかったため,東西両陣営はそれぞれ集団的自衛権を根拠にした多国間または二国間の相互防衛条約を締結し,実質的な同盟復活の様相を呈した。日本政府は第2次世界大戦後長らく,集団的自衛権に関して「国連憲章の加盟国として,また対日講和条約5条C項の規定どおり日本は集団的自衛権をもつが,憲法第9条のゆえにそれを行使することはできない」と説明していた。しかし 2014年7月,安倍晋三内閣は,一定の条件のもとで集団的自衛権の行使は認められるという憲法解釈の変更を閣議決定した。

出典: ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典「集団的自衛権」

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