Britannica face to face

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Britannica face to face Vol.1


── 大学生時代の思い出深い経験についてうかがいます。


法学の研究室に残ろうと思って最初にやったのは、ドイツ語のゼミをとることでした。東大法学部のゼミは半期ごとですから、3年生からだと卒業までに4つのゼミがとれるんです。人が集まるのは商法とか民法とか、実務に役立ちそうなゼミなのですが、私はあまり興味が持てず、研究者志望でもあったので、ドイツ語を訓練しようと決意しました。入ったのはドイツ語の民法の教科書を読むゼミで、東大法学部でも人気は低かったです(笑)。英語だけで授業を行なうゼミなどは、英語が堪能な人も多いので人気でしたが、私が入ったゼミでは、学部生は私一人、助手と院生が一人ずつの合計3人だけです。でも、大学の授業の中でも、それがいちばん楽しかったかなぁ、という感じですね。


ただ、実のところ、その内容はよく覚えていないんです(笑)。ドイツ語を読むということ自体を楽しんでいた気がします。一般教養でとったドイツ語の授業はおもしろく感じなかったんで、外国語を読むということはこういうことだと、ゼミに入ってはじめて気づいた気がします。結局、自分の興味のあるものを読まないかぎり、外国語だろうと日本語だろうとつまらないわけです。興味さえあれば、どんなにたいへんでも外国語学習って楽しいものですよ。なにが書いてあるんだろうって、読み進めることが喜びになりますから。


私は大学生になった時点でもう法学を専門に学ぶと決めていたので、教養学部の授業にはあまり興味をもてなかったです。でもいくつか印象的な話は聴くことができました。海洋系の先生のウナギの卵の話とか、とても印象に残ってますね。結局どんな分野でも、自分の研究対象が好きかどうかで、教える側の熱量の差が大きかった気がします。それは教わる側にも伝わってしまうんですね。でも法律の専門家とはいえ、好きな研究だけしてるわけにはいかないんです。新しい法律や判例が出たら、好き嫌いを問わず、それを学び、解説しなくてはならないわけですし。


── 教授は日々学生に向き合っていらっしゃいますが、ご自身の学生時代との違いはお感じになりますか。


まずは、ずいぶん忙しそうだなぁ、ということでしょうか。アルバイトだったり就職活動だったり、それ以外にも処理しなければならない情報が多すぎてたいへんそうに見えますね。情報が簡単にインターネットでアクセスできると、どうしてもそうなりますね。自分に必要のない情報でも、知っておかなければならない気がして。これはなかなか難しい問題です。


私は自分が読む側でもあり、書く側でもあるのでよくわかるんですが、インターネットで目立つ原稿には、ある特徴があるんですね。正確さを犠牲にして、かつコストをかけない原稿を平然と書ける人が目立ちやすいメディア、それがインターネットなんです。


最近の話題を例にとってみましょう。民進党の蓮舫代表が二重国籍問題で批判を浴びましたが、国籍のことをよく理解していないし調べてもいないのに、蓮舫さんの国籍問題についてさも知識があるように語ってしまう人が多い。あるいは国会で安保法制が議論になれば、調べもしないで生半可な知識で集団的自衛権や憲法第9条について語ってみるとか。それぞれ専門家はいるわけですが、きちんと取材したり原稿の執筆を依頼したりするとなると、情報を発信する側も大きなコストがかかります。それが嫌なので、評論家的にさっと話せたり、文章が書けたりする人のところに依頼が集中するようになる。語り口はおもしろいので、多少内容が不正確であってもネット上ではもてはやされるし、話題になりやすい。そんな原稿が多いですよ。


結果として、そんな情報ばかりにアクセスして話をする学生というのも当然増えてくる。だからレポートを提出させる際にも、そういうやり方では書けないような課題を出すようにしています。情報を取得する際に、学生はインターネットから入るのはやめた方がいい。まず批判能力と、情報の正確さを評価する能力を身につけたうえで、インターネットを道具として使わないと、たいへん危険だと思います。


── 一歩一歩を確認しながら論を進める地道な研究者の文章には目を向けず、テレビをにぎわすコメンテーターの発言に気をとられているようなものでしょうか。


私もコメンテーターやってたことあるんですけどね。


── そうでした(汗)。もちろん拝見していました!


後編に続く


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プロフィール
木村 草太(きむら そうた、1980年 - )は、日本の法学者。専門は憲法学、公法学。首都大学東京大学院社会科学研究科法学政治学専攻・都市教養学部法学系教授。東京大学法学部卒。著書に、『キヨミズ准教授の法学入門』(星海社新書)『憲法の創造力』(NHK出版新書)『憲法という希望』(講談社現代新書)など多数。『ブリタニカ国際年鑑』への寄稿に2015年版「憲法と自衛権──7月1日の憲法解釈から」、2016年版「平和安全法制の是正に必要なもの」がある。