氷点下の環境でも生きていける生き物がいます。たとえばワカサギ。ワカサギといえば、北海道の阿寒湖、岩手県の岩洞湖など有名な釣り場がたくさんありますので、凍結した氷の上に穴をあけて釣りを楽しんだことがある方も多いのではないでしょうか。さらには、氷で覆われた南極の海にでさえ、凍らずに生命を維持することができる魚が生息しています。一般的な魚はマイナス0.7℃くらいで凍ってしまいますが、南極の海にすむノトセニアという魚はマイナス2℃でも凍ることなく活動できるそうです。このほか魚類では、カレイ、シシャモ、タラ、ニシン、カジカの仲間に低温下でも耐えうる性質をもつ種がいます。
さて、よく考えてみると、氷点下でも問題なく生存できるというのはとても不思議なことですよね。わたしたち人間ならばそうはいきません。もし人の体が凍ってしまったらとんでもないことになります。水は凍ると体積が約10%増えますので、人体の細胞内の水分は膨張し、細胞膜が破れてしまいます。血流も止まり、全身に酸素が行き渡らなくなります。このように、通常、生き物の体内にある水分が凍ると、大きな支障をきたします。
みなさんは一度凍らせてから解凍した野菜を見たことがありますか?もしあれば、とても食欲をそそるものではなかったはずです。これには、野菜の内部に含まれる水が凍結する際に起こる現象が関わっています。植物が時間をかけてゆっくりと凍る際、まず細胞周囲の水が凍り始め、氷の結晶が形成されます。これにより、細胞内の水が奪われてさらに結晶の形成が進み、細胞は縮んでいきます。次に解凍です。植物の細胞はある程度の弾力がありますが、急速に解凍されると細胞が膨らむよりも早く水が細胞に流れ込むため、細胞が壊れてしまいます。凍った野菜を解凍するとしわくちゃになったり、形が崩れてしまったりするのはこのためです。しかし、カイワレ大根など特定の野菜は解凍しても形がくずれません。
それでは、なぜ氷点下の海で生きてゆける魚がいたり、解凍しても形が崩れない野菜があったりするのでしょうか。その秘密は「不凍タンパク質」にあります。不凍タンパク質は、氷の表面に強く吸着して氷粒子の成長を抑制する能力があり、凍結防止や生き物の生命維持に貢献しています。実はここまでに紹介した生き物は全て不凍タンパク質をもっており、魚や植物以外にも、クワガタなどの昆虫やキノコ、微生物など、低温環境下に生息する生き物の一部からこのタンパク質が見つかっています。
氷にくっついてその成長を妨げるという、なんとも不思議で魅力的な不凍タンパク質。ご想像通りかもしれませんが、多くの研究者が不凍タンパク質の応用に強い関心を寄せており、たとえば食品、工業、医療など様々な分野で実用化に向けての取り組みが始まっています。このタンパク質があればこんなことができるかもしれない……と考えるとワクワクしませんか?
ブリタニカ・ジャパンでは「不凍タンパク質」というSTEAM教育のコンテンツを、経済産業省の「STEAMライブラリー」にて提供しています。不凍タンパク質に関心をもった方はぜひ一度ご覧ください。氷晶が形成される過程やそれによる影響、そして不凍タンパク質が凍結を抑制するしくみと応用の具体例まで、詳しく解説しています。
学校教育においても、2022年より「総合的な探究の時間」が全面実施され、生徒たちは、ただ調べ学習をして知識を蓄えるだけでなく、情報の収集や整理、分析をしながら教科の枠を越えて協働的に取り組むことを通じて、自己の在り方や生き方を考えていくようになりました。
例えば自分なら不凍タンパク質を使ってどのような問題を解決できるか、あるいはどのような製品が開発できそうか……など、決まった答えのない大きな問いを立て、自身のこれまでの体験や蓄積した知識を生かしてチームで自分たちなりの解を追い求める、そのような新しい学びが探究学習です。
1コマ目 | 氷晶にはどのような種類があるか? 氷について知っていることを確認し、単結晶氷と多結晶氷の違いについて調査する。 |
2コマ目 | 凍結濃縮現象はどのようにして起こるのか? 凍結濃縮現象とは何か、またその仕組みを学習し、それを説明するインフォグラフィックを作成します。 |
3コマ目 | 新鮮な野菜と冷凍・解凍した野菜の違いは? 冷凍・解凍した植物や野菜がどうなるかを議論し、その過程や野菜による違いなどについて考察する。 |
4コマ目 | なぜ、流氷の海に生息できる魚がいるのか? 一部の魚や昆虫、植物が低温環境下でも生息できるのはなぜかを議論し、不凍タンパク質をどのように製品開発に応用できそうかを検討する。 |
5コマ目 | 自分たちが提案する製品に需要はあるか? 自分たちで考えたアイデアをプレゼンテーションにまとめ、考えた製品を他のチームに対して売り込むロールプレイを行う。 |
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