なぜ「怖い」のに「楽しい」のか

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 人はなぜスリルを求めるのでしょうか。怖いとわかっているのに思わず見てしまう、はらはらどきどき、緊張感が止まらない、でもやってみたい……ホラー映画やお化け屋敷、ジェットコースタースカイダイビング、怖さの程度や種類はさまざまですが、それぞれとても人気があります。これまで人は、少なからず恐怖に魅了されてきました。誰しも怖いもの、恐怖心を煽るものに対して好奇心がそそられるような経験をしたことがあるでしょう。今回はそんな「恐怖」と「快感」の不思議な関係について掘り下げてみたいと思います。

恐怖と脳の反応

 恐怖に関する研究によると、恐怖によって活性化される脳の神経系は、快感に関連する神経系の部位とかなり重複しているのだそうです。したがって、ホラー映画を観て恐怖を味わうと、それと同時に快感を覚えるというわけです。

 目や耳から入った恐怖に関する情報は、「小脳扁桃」というアーモンド型のニューロン群に送られ、脳と身体を活性化するさまざまなホルモンを分泌します。

ホラー映画を見ると脳が活性化する?:経産省STEAMライブラリー 未来の教室『「こわい」と娯楽【日本語版】』より

 一方で、記憶感情の制御、行動の抑制など高度な精神活動をつかさどる前頭前皮質にもこの情報は伝えられ、あくまで映画は映画でしかないことを認識します。もしこのはたらきがなければ、映画やお化け屋敷と現実の区別がつかなくなってしまい、今秋10月公開予定の『貞子DX』を見てしまったら最後、後に「あの映画はとんでもなく怖くて最高に面白かった」と、「楽しい」映画として思い出すことなどないでしょう。

 →『貞子DX』公式サイト

 ある神経科学者は、「小脳扁桃は、現実であろうとなかろうと恐怖によって活性化するが、危険がないことを前頭前皮質が教えてくれるので、活性化してもおびえずに満足感を味わえる」と説明します。

恐怖と心理

 ジェットコースターに乗り、ゆっくりと頂点へ向かう途中、景色がどんどん高くなって地面が遠ざかり、緊張感が高まります。しかしその恐怖を体験しながらどうにか切り抜けることが満足感につながります。バンジージャンプやスカイダイビング、ラフティングなどのエクストリーム・スポーツはもちろん、ホラー映画を観るのも、自分の限界を試して乗り越える1つの方法であるとされています。

恐怖を乗り越えることで満足感につながる:経産省STEAMライブラリー 未来の教室『「こわい」と娯楽【日本語版】』より

恐怖とエンターテインメント

 伝説の映画監督にして「サスペンス映画の帝王」と称されるアルフレッド・ヒッチコックは、1956年刊行の『ブリタニカ百科事典』第14版(1929~73)で、「監督は自分の言いたいことを、なにか新しい方法で伝えるように常に研究していなければならないし、それを最もむだがなく、かつ最小限のショットで表現しなければならない。観客の目をしっかりと引き止めておかなければならない表現手段では、強烈な衝撃力をもった映像がとりわけ重要である。」と語っています。

 当時、芸術性については軽視されていたサスペンス映画ですが、確固たる哲学に基づき、極限まで研ぎ澄まされ、計算され尽くした斬新な手法を用い、「恐怖」にまつわる人間の心理を支配した結果、『サイコ』に代表される名作の数々が生み出されました。彼の作品は、後世の映画ファンからも揺るがぬ支持を受けています。

 彼はまた、「突然起こる恐怖はない。予感させることで恐怖は成立する。」という名言を残しています。

予感させることで恐怖は成立する:経産省STEAMライブラリー 未来の教室『「こわい」と娯楽【日本語版】』より

怖さを探究する

 学校教育において、2022年より高等学校で「総合的な探究の時間」が全面実施されました。生徒たちは、ただ調べ学習をして知識を蓄えるだけでなく、情報の収集や整理、分析をし、さらにまとめ・発表を行い、教科の枠を越えて協働的に取り組むことを通じて、自己の在り方や生き方を考えていきます。

 例えば自分なら「怖い」と「楽しい」をどのように分析できるだろうか、それならきっとこんな分野に応用できるはずだ……など、私たちが直面している状況や問題に照らしながら、決まった答えのない大きな問いを立て、これまでの体験や蓄積した知識を生かしてチームで自分たちなりの解を追い求める、そのような新しい学びが探究学習です。

 ブリタニカ・ジャパンでは「『こわい』と娯楽」というSTEAM教育のコンテンツを、経済産業省「STEAMライブラリー」にて提供しています。怖さと楽しさの関係に興味をもった方はぜひ一度ご覧ください。「こわい」ことを恐れているはずなのに、お金を払ってでも体験しようする……このパラドックスが起こる仕組みについて、「こわい」が脳やその他の器官に及ぼす影響の観点から学びを深めていきます。

1コマ目:「こわさ」はどう分類できるか?どのようなときに「こわい」と感じるか、生徒それぞれのアイデアを共有します。
2コマ目: 「こわさ」を感じさせる音とは?  恐怖心をかきたてる音にはどのような特徴があるか考えます。
3コマ目: 「こわさ」をどう演出するか?グループで協働して「こわい」音声作品を制作します。
4コマ目: 「こわさ」は人間の身体にどのような影響を及ぼすか︖恐怖は脳やホルモン量など、人間の身体にどのような影響を与えるか学びます。
5コマ目: 娯楽としての「こわさ」は社会にどんな効果をもたらすか?「こわさ」が娯楽として許容されるために、どのような条件を満たす必要があるかについて検討していきます。
STEAMライブラリー 未来の教室「こわい」と娯楽

参考:「恐怖」と「快感」の裏腹な魅力:ホラー作品の人気を脳神経科学と心理学から分析(WIRED.jp)


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2022春、更に13テーマを加えパワーアップ!STEAM×Britannica